ニューオーダーというバンドとの出会いは高校生の頃。よく通っていたお店の名前がニューオーダーで、とてもお世話になった店員さんが『Get Ready』というアルバムを貸してくれました。当時やさぐれていた私はそのお店の影響もありDJシャドウ、エイフェックスツインなどを好んで聴いておりニューオーダーの「ニュートラル感」にはあまり刺激を感じず、ピンときませんでした。
あれから10年少し。ここ数年でポストパンク〜ニューウェーブというジャンルの音楽を聞く機会が増え、次第にジョイディビジョンやニューオーダーを聴く機会が増えました。ニューオーダーの前身がジョイディビジョンというバンドです。
ジョイディビジョンはわずか2年しか活動しなかったものの後世のロック史にその名を刻むポストパンクの代表的存在です。ボーカルのイアン・カーティスが癲癇持ちでその後自死、残されたメンバーで編成されたバンドがニュー・オーダーです。バンドフロントマンの死がもたらすカリスマ性は計り知れないですが、彼らはそれを良い具合に振り切ります。ギターボーカルのバーナードサムナー、通称バーニーは、イアンカーティスの鬱々と重苦しさとは対照的な、夜に浮かぶ星のように、小さくきらめくようなささやかな声を持っていました。イアンが闇であればバーニーは星のような。ゆえにとても聴きやすく耳馴染みが良くニュートラルな声です。シャウトする訳でもなく、隣に寄り添うような歌声はニューオーダーの魅力のひとつといっても良いでしょう。
①ニューオーダーを好きな理由:曲が単純にかっこいい/後進への影響力
ファクトリーレコード、ハシエンダ、マッドチェスターetc...ニューオーダー周辺を語る要素は多くあるのですが、ニューオーダーが好きな一番の理由はやはり彼らの音楽がカッコいいからです。
彼らの影響を公言しているバンドは枚挙に暇がありませんが、キュアー、ザ・スミス(ジョニー・マー)、ストーンローゼズ、プライマルスクリームおよび90年代初頭にブリッドポップを牽引するブラーやオアシス、ひいてはスマパン、ケミカルブラザーズ、コールドプレイ、レディオヘッドなど数多くの優れたバンドの要素があらかじめニューオーダーの音楽に胚胎しています。多くは語りませんが、ジョイディビジョンとニューオーダーを結び付ける名曲「Ceremony」、テクノ(打込み)に移行した「Blue Monday」、甘美な哀愁を湛えた「Regret」、9年の時を経てかき鳴らした「Crystal」...そもそも曲名がいちいちカッコいい。音の作り方自体も、今でこそロックとテクノの融合がサカナクションの活躍などでプッシュされていますが、もう30年前のニューオーダーがそれをやっています。ジョイディビジョンの作品でもクラフトワークのような打ち込みやリズムボックスの活用が確認できますが、ここまでシンセサイザーや打込みを取り入れ世界的に波及させた中心はマンチェスターがはぐくんだニューオーダーだったと思います。ただ個人的には打込み系よりも「Ceremony」や「Regret」「Crystal」「Academic」などのオルタナティヴでニューウェーブな音が好みです。あと、どの時間帯でも聞けます。レディオヘッドほど暗すぎず、ブリッドポップより明るすぎずの絶妙な塩梅でもって淡々とグルーヴを生み出していく音は、雑味の無いコーヒーを飲んでいるような味わい深さがあり、くどさも嫌味もありません。特筆すべきは2015年発売、その名も『Music Complete』。ベースの要であるフッキーは居ませんが、クオリティが下がることはありませんでした。
10年という歳月を経て初老の彼らが生み出す音は、まったくメンバーの高齢化を感じさせません。ニューオーダーらしさを忘れず、さらに進化を感じさせるその姿勢には畏敬の念すら抱きます。
ニューオーダーを好きな理由2:ピーターサヴィルのアートワーク
そして何と言ってもピーターサヴィルのアートワーク。ジョイディビジョンの2作も最高傑作です。
いろいろ芸術や絵画が好きなのですが、ピーターサヴィルのデザインはおそらく今までの自分のなかで一番カッコよくて、今でも彼の作品からは影響を受けています。ミニマルでインダストリアルなデザインですが、緻密に計算された美しさがあり、バウハウス的な幾何学的ー数学的デザインと過去の美術を参照しつつ現代にアップデートさせるさまはファッションのモードの世界にも影響を与えています。フォントの位置や大きさ、色使い、すべてにおいてパーフェクトな彼の作品群において私が愛してやまないジャケットは本ブログタイトルにもなっている『Get Ready』です。写真はユルゲンテラー。
その一曲目。
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その他のニューオーダーのアートワークもご紹介します。
ファーストアルバムはバウハウス的なデザインが特徴の『Movement』
FACDとは、ファクトリーレコードというレーベルのことで、その50作品目を指しています。
ラトゥールの絵画をフューチャーした『権力の美学』
イビサ島におけるアシッドハウスとの出会いによる『Technique』
火事とビーチという対照性を描く『Republic』。
どれも素晴らしく、視覚に訴えるものばかりです。
『権力の美学』などニューオーダーとジョイディビジョンの優れたアートワークは、例えば2003-2004AWのRAFSIMONSのコレクションにも採用されています。
今や伝説とも言えるこのラフシモンズのコレクション。今月発売の『Them magazine』もラフシモンズのアーカイブが野口強氏のスタイリングによって特集されています。上のモッズコートも載っていてとても興味深いです。シュプリームも数年前ピーターサヴィルのアートワークをフューチャーしていますし、アンダーカバーも取り上げていました。音楽のみならず、現在のモードを牽引している様々な表現者にピーターサヴィルは影響を与えています。そして Vetementsなど今現在のモード〜ストリートファッションを見渡してみても、一周回って流れがこの時期のラフシモンズに回帰しているような気がしてなりません。それを提示してくる『Them magazine』の嗅覚が素晴らしいです。
そして5月末、ニューオーダー29年ぶりの単独公演。見に行けることになりました!
こんなにライブが楽しみなのも久しぶりで、今から高まっています。