get ready(30代男の物欲と服ログ)

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サカナクションの発明

注:ここで書かれているサカナクションは個人的なイメージであり、インタビューや二次資料的な参考文献から引用された実証的なものではありません。

エンターテイメントとしてレディオヘッドは優れているか。サマーソニックでレディオヘッドが前座として指名したといわれていたサカナクションのライブはまさにエンターテイメント、スペクタクル満載だった。サカナクションが2010年代のJロックシーンで最も成功した理由は間違いなく彼らが標榜した「オーバーグラウンドとアンダーグラウンドのクロスオーバー」だった。くるりやナンバーガールやスーパーカーはロキノン系愛聴者のみのスノッブな音楽だった。さかのぼれば渋谷系と呼ばれる音楽もそうで、サブカルチャー=自分はメインカルチャーの音楽は聞いてない、人とは違うんだという要素で構成されていた。山口一郎はくるりやスーパーカーなどの恩恵を受け、その滋養をもとに自己の音楽観を構築していると思われる。それとエレクトロニカ。もはやそれを誰が凄いと思うのかわからないが、毎回remixには錚々たるエレクトロ・マイスターが名を連ねている。私の私淑している砂原良徳,AOKI takamasa,rei harakami,石野卓球、コーネリアス...もはや世界的すぎて凄まじい人たちにサカナクションはremixされている。ここにまずサカナクションが凡百のエレクトロロックバンドと名を称する輩と一線を画している理由のひとつである。しかしながらサカナクションを批判するー批判しないにせよ意図的に距離を置く音楽好きもいる。サカナクションはややサブカルくさく、スカした音楽に映ってしまうのだ。仕方ない。

山口一郎の歌詞は脆く、弱く、儚い。

雨や夜がほぼ十中八九出てくる。

バンプオブチキンやラッドウィンプス的な厨二心をくすぐる要素も入っている。感情的なメロディの抑揚が多発する。サビでのアガりかたが尋常じゃない…などなどサカナクションを揶揄する声もあるが、そのような揶揄すらも到達できぬほどサカナクションは高みまで来てしまった。ミュージックという曲のイントロの打ち込みが確実に以前のものより研ぎ澄まされているのもひとつの証左だろう。ベースラインもフックの効いた、空間を生かしてタメを使ってノリを生み出す。山口一郎の歌詞も「引っ張った」とか「千とレイと点と線の裏」とか「何分か後に行く」とか「ん」や「っぱった」など言葉そのものがもともと持っているリズムで言葉を飛び跳ねさせる。これは面白い。

サカナクションが今後どれだけの活動や内容を提示してくれるのかわからないが、「ミュージック」というアルバムは今までで一番完成されたサカナクションだと思うし、夏フェスで盛り上がるだけのBPM早めの曲ありきの音楽制作トレンドに警鐘を鳴らす山口さんの作る音楽にこれから注目したい。確かに日本のJロックは早急な四つ打ちにキャッチーなギターリフというのが大半なので期待したい。ちなみに以前このブログでもご紹介したいオウガや坂本慎太郎はまさに高速ビートの逆を行ってる。でも高速ビートよりも深い酩酊に浸れる芯の強さが素晴らしい。

サカナクションもまだどっちかというとビートが早い方で、オウガ、坂本慎太郎、cero,D.A.Nに代表されるようなミニマルメロウ感は少ない。でもエモーショナルで感情的で抑揚があるところがサカナクションのよさなのでこれからもビッグバンドとしてサカナクションしかできないことをやってのけてほしい。クラフトワークのオマージュや照明、舞台など総合芸術としてのライブを志向しているのは結構だけど、レディオヘッドみたいな一周回ってシンプルに客と対話するかのように「聴かせる」ライブもみてみたい。いずれにせよ、今後どの方向に舵を取って進化するか、楽しみです。