【ネタバレあり】
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怒涛の固有名詞の連発により、麦くん(菅田将暉)と絹さん(有村架純)のサブカル愛が彫琢されていきます。
坂元裕二さん脚本に登場する人物は細かいネタが多いので、ぽいなあと思いながら鑑賞。
共通の趣味のある異性と共振してお互いを好きになる事象はかなりあるあるだと思うし、メジャーなモノよりマイナーなカルチャーに浸ってきた自分にも思い当たる節があるし、そういうのって10代後半〜20代前半にはあるあるだと思います。
「その人そのものが好きというより、
趣味を共有できる人が自分以外にいてくれた奇跡」みたいな。
恋愛は終わりの始まりである、という絹さんのモノローグが、付き合って直ぐに挿入されます。
「恋の死」というテーマが、2人の恋愛の最高の盛り上がりの中に内在しているのも興味深いです。
絹さんは就活に励み、麦くんは夢であるイラストレーターになることに向けて家で絵を描き続けます。
2人の〈社会〉への回路は、異なります。
絹さんは連日、圧迫面接を受けながらも〈社会〉との接続を試みるために就活を続けますが、麦くんは「一緒に暮らそう」「就活なんてクソくらえ」バイブスを高めて、「ノリ」で2人での生活を始めます。新しい生活を始めた2人はとても幸せそうです。
大学を卒業した2人はフリーターとしてバイトしながら暮らしていきます。
いつしか「このままこういう生活が続く」ことへの「生ぬるさ」への危機感から
〈社会〉へ出ることを決意した麦くんは就活を始め、絹さんも簿記二級を取り、歯科事務のような就職先が決まります。
この2人のアティチュードは、10年前の映画『ソラニン』のアップデートと見て取れました。ソラニンで種田は、ネオテニー(幼生)の中で自死を選択しますが、麦くんは働く道を選びます。
麦くんもEC物流系に内定し、2人とも順風満帆に見えます。
「仕事をしながら同棲する期間も長く、もうあとは結婚かな」というふうに見えます。
2人の好きな映画を見に行くことも、仕事で難しくなっていき、口論になることも増えていきます。でも、至って普通だと私は思います。
靴もジャックパーセルから、革靴へ。
麦くんの読む本も、文芸モノから『人生の勝算』という自己啓発本へ。これもとても良く分かる。
同期も結婚をし、自分達も結婚いつ頃かな、という話も、自然と出てきますが、微妙なすれ違いがあり、うまくいきません。
絹ちゃんはイベント会社へ転職します。
その中でなんとも言えないもやもやが募ります。
友人の結婚式の最後に2人とも別れることをお互いに決意し、ファミレスでその話をします。「楽しかったね」という言葉を皮切りに、別れ話を切り出します。
意外に感情的にならず、さらっと絹さんは別れようとしますが、麦くんは結婚したいと最後まで食い下がります。
「恋愛感情なくなったって、結婚する人もいるよ」「今家族になったら、うまく行くよ」
「長い時間かけて幸せになろう」
と麦くんは説得します。
そこに全く麦くん、絹さんの生写しのような2人が現れます。白いジャックパーセルを履いて、「羊文学」や「長谷川白紙」が好きな男女、付き合う前のカップルです。
出会った頃の2人を思い出し堪らなくなった2人は外へ出て号泣。それが最後の別れのシーン。
とはいえ、別れが決まっても3ヶ月は一緒に暮らしてるふたり。そこは楽しそうです。
別れてからも相手のことを思ってる、独身のまままの2人。まだまだ未来が開けている2人。
4年の恋愛の始まりと終わりをうまくまとめていると思いましたが、別れを選択した原因がよくわからず、もやっとしました。説明もきっかけもなく、よく切り替えて笑えてるな、というところも、やや別れを美化しているように感じました。
「サブカルに詳しいから好き」だと、その人そのものを好きになったことにはなりません。
なぜなら、サブカルに詳しいひとなど山ほどいるからです。
「麦くんじゃなきゃだめ」「絹さんじゃなきゃだめ」みたいなエモーショナルさはあまりなく、フワッとした別れ方も今っぽいかもしれません。
サブカルから疎遠になる菅田将暉の雰囲気が私の中では特に見どころで、
三十路過ぎて思い当たる節が自分にもあるし共感できました。そのまま結婚してもよかったやーん、という感想を私は持ちましたが、見る人によって感じ方が違うようで、それを話すのも込みで良く作られた、解釈の余白を与える、考えられた映画だなあと思いました。
ちなみに絹さん、付き合い初めのときに「私、ホワイトデニムを履く男性は嫌いです」
と言っていました。
スキニーやスリムならともかく、ワイドな生成りくらいのホワイトデニムなら結構良い気もするんですけどね…
そんな細かい設定によって性格を表す坂元脚本はやっぱり良いです。
そして最後にひとつ。
麦くんと絹ちゃん本人は『花束みたいな恋をした』という映画が劇中に登場したらどう評価するのでしょうか?
「自分と似たやつが出てるし、こういうサブカル野郎は苦手」と同族嫌悪で跳ね除けるか、
「同じ苦しみを持ってる人がいた」と共感するか…
そこも気になるところでした。