宇多田ヒカルさんが先日、いきなりコーチェラフェス(アメリカはカリフォルニア州で行われている世界最大級のフェス)に出演することが決定、Twitterにてアナウンスされました。
私は6年ほど前に宇多田さんの「Fantôme」というアルバムについてレビューしたことがあります。
https://makkikka.hatenablog.com/entry/2016/10/10/172939
それから6年後の2022年、宇多田さんは本人も「最も気に入っているアルバム」と評する「BADモード」をリリースしました。
スティーリー・ダンのようなバンドサウンドで、それを更に良質な今のグルーヴにアップデートした表題曲は、とても耳障りがよいのにグルーヴ感が際立っていて、突出してイヤホンで「いい音」が聞こえます。
このことについては先週、「関ジャム」というテレビ番組で「宇多田ヒカル特集」が組まれていた際、awesome city clubのポリンさんも指摘していました。圧倒的に音が良い。
そして何よりも、「親密さ」が増していました。一時期は天才的な才能でもって、凡人の私を置き去りにするかのようなイメージだった宇多田さんですが、今作はいろんな愛情に満ち満ちていますし、同じく「関ジャム」にて佐藤千亜紀さんが指摘していたように、「インナールーム」=宇多田ヒカルさんの部屋に招かれたかのような錯覚をも感じてしまうのです。
ジャケットを見れば分かる通り、宇多田さんはスウェット(フーディ)のセットアップを着ていて、恐らく後ろではお子さんが歩いています。
めちゃくちゃプライベートなCDジャケットではないでしょうか?
そして宇多田さんの表情も自然体そのものです。彼女の音楽は「自然体」だなー、と思います。だからこそ、室内とかそういうところでの歌が似合う歌手でもあると思います。
Floating pointsという私も好きな電子音楽アーティストとの共作も話題がありますが、何よりも電子音楽の使い方も変にエレクトロダンスミュージックにするのではなく、あくまでも落ち着いたところに留まっています。(最後曲「マルセイユ辺り」はアシッドハウス調ではありますが)
そんな宇多田さん、キャリアもいまが絶頂にあるのでは、と思ってしまうほど。「Fantôme」で「人間活動」の復帰を果たし、次の「初恋」ではかなり内面に入り込むような作品であり、「BADモード」はこのコロナ禍という"badモード"と呼応するように、部屋の中にいる宇多田さんのジャケットから想起される音像でありました。
その宇多田さんがコーチェラに出る。何万人もの観客がいる野外フェス。BADモード的な世界とは違う外的世界で、日本でないアメリカで宇多田ヒカルはどう響くのだろう、と思って聞いてみて思ったのは、やはり宇多田ヒカルは凄い日本人アーティストであるな、ということでした、凡庸な感想ですが…
限られた短い時間の中の出演だからBADモード的なグルーヴはバンドサウンドだから辞めたのか、いきなり「simple and cleanー光」から始まりました。初めは機材トラブルなのか歌いにくそうでしたが、徐々に会場に慣れていって、「First love」からの「Automatic」で締め。
本当に名曲は廃れない。今聴いても全く古びないどころか、一周回って新しい感じにも聞こえてしまう、「Automatic」
日本人・日本の歴史上最も売り上げたアルバムの2曲がアメリカの地で響き、アメリカのお客さんも体を動かしながら日本語のポップミュージックを聴いている。とても不思議な光景でした。
宇多田さんを囲んで踊るダンサーのポジティブなバイブスも非常に良かったです。
「BADモード」の披露はありませんでしたが、今後もコーチェラ出演を皮切りにフジロック、サマソニなどのフェスにも是非出てほしいです。
宇多田ヒカルと同世代に生きていて良かったし、改めて日本の宝だなと思いました。
まだお聴きになっていない方は、BADモード、ぜひ一度聴いてみてください。肩の力が抜けた、飾らないんだけども、良質なポップミュージックです。