デヴィッド・リンチが死んだ。昨年から貪るようにツインピークスシリーズにどっぷりと浸かり、アンダーカバーのコラボキャップも買った身としては、タイムリーだった。学生時代から映画作品は全て鑑賞していた監督ではあったが、手元に残しておきたいと思い、DVDをAmazonで買い求めた。『イレーザーヘッド』『ブルーベルベット』『ツインピークス ローラ・パーマー最後の7日間』『ロストハイウェイ』『マルホランドドライブ』が即座に手元に届き、18年ぶりくらいに見直した。
『ツインピークス ザリターン』(2017)を経て過去作品を見返すと、そのどの作品にもリンチ特有のモチーフとスタイルを確かに発見することができて、開眼した気分になった。学生時代、義務的かつ闇雲に観ていた頃とは違う。赤いカーテン、電気、黒塗りの人物、現実と虚構を行き来し、人物が常に解消できぬ葛藤や闇を抱えているノワール的構成などを、奇怪的に思われつつも、実は非常にスタイリッシュに描いている。どの作品の「部屋」のインテリアも格好が良く、登場する人物も格好がいい。そう、リンチは彼自身も常にスタイリッシュでクールだった。
リンチは常に白のブロードシャツをボタンの一番上まで留めて着ており、黒いセットアップに身を包んでいた。プライベートのリンチ、というのをあまり知らないが、だらしない格好をしていたところを見たことがない。髪型もずっとオールバックで変わらずクールだ。
リンチはスウェットを着ていただろうか。真相は定かではないが、少なくとも『ツインピークス』に登場する主人公デイル・クーパー捜査官は着ないだろう。リンチの分身とも言えるカイル・マクラクランはその少ないリンチのフィルモグラフィーの中で最も主演を務めた。彼の感動的な追悼文も胸に来るものがあった。
ツインピークスやリンチの世界でスウェットはあまり出てこないが、仮に人物が着るとしたらこのCOMOLIのスウェットが良いだろう。リンチとCOMOLIには共通項としてトレント・レズナーが居るのだから。
さて、私は近年スウェットをほとんど着ていない。部屋着だからだ。部屋着のスウェットは、どう足掻いてもカジュアルな域を出ることはない。少なくとも単体で着る時は。
セットアップはなおさら部屋着感が加速するだろう。とはいえ、COMOLIの提案するスウェットのセットアップは実に魅力的で、何がそうさせるかといえば、その「制服」感だと思う。COMOLIはいつも制服とかミリタリーとか、道具としての服の魅力を教えてくれる。私は服はドレスアップするものとして捉えているところが多分にあるが、小森氏はかつてインタビューで述べていたように、男っぽい服が好きで、それは何かといえばユニフォームやワークウェアなのだ。私も現在COMOLIを買い集めて10年が経つが、そのユニフォーム性に惹かれている部分がある。同じものを飽きずに着続けて、買い足していくということ。このスウェットをはじめ、コモリシャツ、デニム、は通年で展開されており、容易に買い足すことができる。「ユニフォームウェア」として捉えるならば、このスウェットもいいのではないか。制服、という面でのスウェットで思い出すのは、スタンリー・キューブリックの『フルメタルジャケット』だ。鬼教官からNGワード連発の叱咤を受けた米軍の候補生たちが訓練で着ているスウェットで、SASUKEまがいのトレーニングをするシーンが好きだ。
小森さんの服は余白があり、その服自体への敬意がある。闇雲にデザインを変更したりしない。だからこそCOMOLIの服はワードローブに残り続けるのだと思う。このスウェットも、何の変哲もないスウェットなのだ。なのだが、着た瞬間、すぐに他のスウェットとは違ったものを感じた。ラグランでたっぷり取ったアームホールから袖にかけてのシルエットはこのブランドでしか成し得ない、リラックス感のある独特のシルエットを浮かび上がらせる。いい服は人の心を動かすエモーションが宿っている。COMOLIの作る服は、COMOLIでしか味わえない感動や喜びがある。今日は初めてblackbirdのフェードしたブラックデニムに合わせたら、なんとなくUKのオルタナバンドっぽくなって良い。この場合、靴はスニーカーだとカジュアルすぎる恐れがあるので、ジャコメッティを合わせたい(また近日紹介予定)。
もちろん、COMOLIのウールフラノパンツやウールサージパンツを合わせるのがバランスが取れていい。
追伸
ロストハイウェイはすべてのファッション好きに見て欲しい。徹頭徹尾スタイリッシュで、なおかつクールだ。ノーラン以前の現代ノワールの完成形。