高校の頃にレディオヘッドやエイフェックス・ツインと合わせて熱心に聴いていたビョーク。10年前の科学未来館の来日も逃し、ようやくワンマンを妻と見に行くことが出来ました。
ビョークはその長いキャリアを全て通して聴いてきたわけではないですが、『debut』『post』『homogenic』はそれなりに聴いてきました。特にポストやホモジェニックは僕の好きなジャンルであるトリップホップやエレクトロニカの要素が強く、当時ビョーク自身もそこに親和性を感じていたはずです。「5years」や「possibly maybe」などたまりません。
そしてパルムドールのラースフォントリアー監督『ダンサーインザダーク』、『vespatine』以降のビョークはより難解というか、コンテンポラリーアートのような様相を呈してきます。マシューバーニーの影響もあるでしょうし、近年はarcaとの共作が多く、共振してビョークの変態=メタモルフォーゼをつぶさに認めることができます。
今回ビョークを観るにあたって、私は2つのポイントに気付きました。
①ビートや音階、安易なメロディラインを拒否するビョーク
前作『utopia』と最新作『Fossora』には分かりやすいメロディラインがほぼ出てきません。それどころか、わかりやすいノれるビートすらも皆無です。なので予習の段階でほぼどれがどの曲かわからず、偶有的=他でもありえそうな楽曲に聞こえてくる現象が私の中にありました。
昔ビョークのインタビューを読んだことがあって、そこでビョークは「音楽や言語が生まれる前の音楽を作ってみたい」という趣旨の発言をしていました。言語以前にあった音楽、それを製作することは、おそらく西洋が生み出したドレミやコード進行、和音や拍子をいったん解体することに他ならぬ行為だったでしょう。
現にユートピアにおけるビョークの音像は身体が自然と動くダンスミュージックとは逆で、ノリ方がわかりません。
実際ライブではビョークの故郷アイスランドから鼓笛隊ならぬフルート奏者が6名、パーカッショニストがいました。そこで驚いたのが、水槽に水を入れ、その上に木製のボウルを何個か浮かべて、水をすくっては水面に落として、その音を楽器の一つとして用いていたことです。
いよいよ自然そのものをビートというか音楽の構成要素にしてきたか、と笑ってしまいました。思い返せば開演時間に流れているSEも森の中にいる鳥の鳴き声や動物の鳴き声で、まるで密林というか文明から掛け離れた場所にいるような演出でした。
②人間から離れようとしているビョーク
ファーストアルバム『debut』
初々しい、人間です
セカンドアルバム『post』
ファーストのモノクロからカラフルになり、イケてます
サードアルバム『ホモジェニック』
いきなりCGかつ、日本なのかどこの国かわからない衣装に。この辺からやや「ビョークどうかしたのかな」感。
そのあと
このような不思議な着ぐるみを着て
近年は笛を持ったナマハゲみたいな風貌に。これは普通に怖い。
これが現在です。ビョークは自らをプロデュースしており、誰かが指示してるわけでは勿論ありません。いったいどこに行こうとしているのか、、ジョジョでいうDIOの「人間をやめるぞーッ!」を彷彿とさせますね。
そしてライブの衣装もこれまた凄かった。
遠くからで分からなかったのですが、キクラゲが歩いてきたかと思ったらビョークでした笑
VJも半端ない。手前に幕があって、そこに投影したプロジェクターと、リア打ちで後ろからホリゾント幕に投影してる二重構造、左右のプロジェクターもあり、圧巻の世界観。原初の地球みたいなマグマから浮き出た地形みたいなところで歌うビョーク。
後半も透明なウニみたいな外套を纏うビョーク。
キラキラと発光していて遠くからはウニというよりクリオネみたいでした。デザインはコムデギャルソンのケイ・ニノミヤ氏だそうです。
途中、環境活動家・グレタさんのメッセージも流れ、ビョークがまず第一に環境保護に力を入れているのが伝わりました。人間の文明が地球を破壊してる、というと安易ですが、そのような理由で人間が嫌いになり、こんな変身を遂げてきたのかもしれぬ、と邪推してしまいました。
しかしとにかく歌が凄い。エッジボイスでストレートな部分の声の強さがやはりビョークの魅力で、そこは本当に世界一流のアーティストなんだな、と感じました。衣装や世界観に囚われがちだけど、そもそも圧倒的に歌唱力が唯一無二なんですよね。ビョークの魅力は。
全体的に芸術鑑賞の域で、とてつもないものを見てしまった、といった感じです。
坂本龍一さんが残念ながら帰らぬ人となりました。一度は観たかったのですが、願いは叶いませんでした。合掌。
ビョークも57歳。次にいつ来日できるかわかりません。今回で10年ぶりなんだから、また次は10年後かもしれないし、それもわかりません。
やはり一生に一度は観ておきたい!と思ったアーティストは早めに観ておいて後悔はないと思います。だからこそ今年は奮発してストロークスもフジロックで観るし、ケンドリックもサマソニで観ます。
とても濃密なビョークの描く時空に立ち会えて本当に良かった。いつかまた夢やイメージの中で甦ってくることでしょう。